天ぷらやフライなどの揚げ物が原因で起こる油火災。東京消防庁のデータによると、近年は減少傾向にあるものの、毎年100件~200件程度の油火災が発生しており、その被害は決して少ないとはいえません。
どの家庭でも油を使った料理をする機会があるからこそ、「もし火が上がったらどうすればいいのか…」と不安に感じる方も多いのではないでしょうか。
油火災は、正しい方法で対処すれば初期の段階で鎮火できるケースも少なくありません。大切なのは、適切な消火方法と、絶対にやってはいけないNG行為を理解しておくことです。
また、万が一ボヤ騒ぎになってしまっても、その後の手順を知っておくことで被害を最小限に抑えることができます。
この記事では、油火災の正しい消し方、避けるべき危険行為、ボヤ後の対処法、さらには日常で意識したい予防策までを分かりやすく整理しました。
いざというとき落ち着いて行動できるよう、ぜひ参考にしてください。
- 油火災の正しい消火方法
- 油火災が起きてしまったあとの対処法
- 油火災の予防方法
油火災の消し方|正しい消火方法とは?

油火災が発生したときは、驚きや焦りから誤った対処をしてしまうケースが少なくありません。そのため、油火災の正しい消火方法を知っておくことが非常に大切です。
【油火災の正しい消火方法】
- 消火器を使って消火する
- 濡れタオルで鍋を覆う
- 蓋で空気を遮断する
以下では、それぞれの方法について詳しく見ていきましょう。
【推奨】消火器を使って消火する
油火災が発生したときの最も確実な消火方法は、消火器を使用することです。
粉末消火器は、粉状の薬剤によって炎の表面を覆い、空気(酸素)との接触を遮断することで消火します。家庭にも一般的に備えられており、操作も「安全ピンを抜く → ホースを構える → レバーを握る」だけとシンプルです。
初期段階であれば高い効果を発揮するため、キッチン付近に1本備えておくとよいでしょう。
なお、油火災による炎が天井に届くほど大きくなっている場合、自力で消化するのは困難です。無理に消火を続けず、速やかに避難して119番に通報しましょう。
濡れタオルで鍋を覆う
消火器が手元にない場合は、濡れタオルを鍋全体にかぶせて火を消す方法が有効です。
ポイントは「鍋に斜め下からそっとかぶせる」ことです。濡れタオルで鍋を覆うことで酸素を遮断し、火が自然に弱まっていきます。
使用するタオルにはしっかりと水を含ませ、水滴が落ちないようによく絞っておきましょう。乾いたタオルを使うと、逆に燃え移る可能性があります。
また、タオルは大きめで、鍋の縁をしっかり覆えるサイズが理想です。
火が小さいうちであれば比較的安全に対応できますが、炎が強い場合はタオルで覆う行為そのものが危険になるため、無理に近づかないことが重要です。
あくまで初期消火の一手段として覚えておきましょう。
蓋で空気を遮断する
鍋やフライパンに付属している蓋で素早く覆うことも、油火災を消火する有効な方法です。
蓋を閉めることで酸素供給が断たれ、しばらくすると火が弱まっていくでしょう。
ただし、蓋を閉める際に炎が立ち上がっている部分へ手を近づける必要があるため、火の勢いが強いと火傷の危険があります。
また、ガラス蓋の場合、高温により破損することもあるため注意が必要です。
蓋をかぶせたあとはすぐに開けず、十分に冷えてから確認してください。早く開けすぎると空気が再び入り、再燃するおそれがあります。
「油火災を水で消火」はなぜダメ?絶対NGな理由とは

油火災の際に水をかけてはいけない最大の理由は、「水が高温の油と反応して爆発的に炎を拡大させるため」です。
水は油より重いため、かけた瞬間に鍋の底へ沈みます。しかし、鍋の底はすでに300℃〜400℃近い高温になっていることが多く、底に触れた水は一瞬で蒸発します。
そして、蒸発した水は体積が約1,700倍に膨張し、下から激しく油を押し上げます。さらに、押し上げられた油は細かな霧状になり、空気中で一気に広がります。
霧状の油は可燃性ガスと同じ性質を持つため、周囲の火に触れた瞬間に引火し、炎が天井方向へ“吹き上がるように”燃え広がります。
この現象こそが水を使うと油火災が悪化する原因です。
火が小さく見える段階でもこの反応は必ず起こるため、「少しの水なら大丈夫」という判断は非常に危険です。
油火災の際は、水での消火はNGという原則を必ず覚えておきましょう。
油火災でボヤ騒ぎが起きてしまったら

油火災は初期段階で消し止められることもありますが、炎が一瞬でも立ち上がると、壁や天井に煤が付着したり、焦げ臭さが残ったりと、想像以上にダメージが広がることがあります。
そのため、火が大きくならなかった場合でも、適切な対処・手続きを行うことが大切です。
ここからは、油火災によってボヤが発生した場合に「まず何をすべきか」「どの順番で動けばよいのか」を分かりやすく整理して解説します。
「どこまで被害が出ているのか」「何から手をつければよいのか」と不安を感じている方は、ぜひ参考にしてください。
まずは119番へ通報する
ボヤ程度の油火災であっても、まずは119番へ通報することが重要です。
初期消火に成功したように見えても、油が高温になっている状態では再燃のおそれがあり、内部でくすぶっている火があとから大きくなるケースもあります。
消防に通報すれば、隊員が現場を確認し、安全が確保されているかどうかを判断してくれるため、確実に再発を防ぐことが可能です。
なお、通報の際は「場所」「状況」「火が見えるかどうか」の3点を落ち着いて伝えましょう。
火が完全に消えているように見えても、煙や焦げ臭さが残っている場合は、無理に室内へ戻らず、屋外で待機するのが安全です。
罹災証明書を取得する
油火災がボヤ程度であっても、自治体から「罹災証明書」を取得しておくことが重要です。
罹災証明書とは、住宅や室内設備がどの程度の被害を受けたかを公的に証明する書類のこと。火災保険の請求や、自治体の支援制度を利用する際に必要となる場合があります。
一見被害が軽く見えても、油煙による汚損や設備の損傷が目に見えない部分まで広がっているケースは少なくありません。
罹災証明書を取得しておかないと、あとになって「証明が足りず補償を受けられない」という事態になりかねないので注意しましょう。
なお、取得の流れは、通常「市区町村の窓口で申請 → 消防や担当課による現場確認 → 書類発行」という手順です。
申請の際は、被害箇所の写真や火災発生日時のメモなどを持参すると、手続きがスムーズに進みます。
詳しくは、以下の記事でも解説しているのであわせて参考にしてください。
【関連記事】
罹災証明書とは?発行の流れや認定基準、受けられる支援について解説
火災保険会社へ連絡する
ボヤ程度の油火災でも、火災保険に加入している場合は早めに保険会社へ連絡することが重要です。
油煙による壁紙の変色、天井への煤汚れ、キッチン設備の故障などは、見た目以上に被害が広がりやすく、保険の補償対象となるケースも多くあります。
連絡が遅れてしまうと被害状況の確認が難しくなり、本来受けられるはずの補償を逃してしまう可能性があるので注意しましょう。
保険会社へ連絡する際は「火災が起きた日時」「原因(分かる範囲で)」「被害の大まかな状況」を簡潔に伝えてください。
なお、火災保険では建物だけでなく、家財・家電の修理費、清掃費用、消臭費用が対象となることもあります。契約内容によって補償範囲は異なるため、「どこまで保険金が出るのか」を担当者に確認しておくと安心です。
専門業者に室内清掃を依頼する
油火災後に同じ家に住み続ける場合は、専門業者への清掃依頼を検討しましょう。
油火災は、火が小さく収まった場合でも煙や油煙が広がりやすく、壁紙・天井・換気扇・収納の内部など、家の隅々まで汚損が及ぶことがあります。
また、油が燃えた際に発生する煙は粘着性が強く、一般的なハウスクリーニングでは落ちにくいのが特徴です。
実際、表面をきれいに拭いたように見えても、臭い成分が建材内部に残ってしまい、「数日後に焦げ臭さが戻ってくる」というケースも少なくありません。
その点、専門業者であれば、被害の程度に応じて煤の除去・油汚れの分解洗浄・消臭作業など、適切な工程を組み合わせて復旧作業を行ってくれます。
生活への影響が出ないよう、早めの相談を検討しましょう。
油火災の清掃ならブルークリーンへご相談を!

油火災後の清掃・消臭でお困りなら、ブルークリーンへご相談ください。
ブルークリーンでは、まず被害状況と臭気の原因を細かく調査したうえで、最適な復旧計画を立てます。
続いて表層ドライクリーニングを実施し、煤が水分で素材内部に沈着しないよう、HEPAフィルター付き機材や手作業で表面の煤を徹底除去します。作業中は室内を陰圧管理し、汚染物質が周囲に広がらないよう徹底します。
その後、高pHのアルカリ分解洗浄で残留した煤や臭気成分を化学的に分解し、大型除湿機を用いて建材を完全乾燥。乾燥が不十分だと臭い戻りや素材の劣化につながるため、当社ではこの工程を特に丁寧に実施しています。
乾燥後は下地保護剤で建材表面をコーティングし、臭気の再付着を防止します。
さらに、必要に応じて原状回復工事やリノベーションにも対応。最後に再調査を行い、施工効果を数値で確認するため、「本当に元通りになるか心配」という方も安心です。
なお、当社は火災保険を利用した修繕や清掃にも精通しているため、「保険適用できるのか知りたい」「どれくらい費用がかかるか不安」といった相談にも対応可能です。
被害状況を確認したうえで、最適なプランやお見積りをさせていただきますので、ぜひお気軽にご相談ください。
油火災の消し方に関するよくある質問

ここでは、油火災の消し方に関するよくある質問を取り上げ、一つずつ丁寧に解説します。「何が安全で、何が危険なのか」を明確にするためにも、ぜひ参考にしてください。
油火災に消火器を使うのはダメですか?
一般的な粉末消火器(ABC消火器)は油火災に有効で、家庭での使用も推奨されています。
しかし、油火災での使用が推奨されない消火器が存在するのも事実です。代表的なものが、ハロン(ハロンガス)を使用した簡易消火具です。
ハロン系消火器は電気火災などには有効ですが、油火災では十分な消火効果が得られません。そのため、家庭に置く消火器を選ぶ際は、「ABC」表示がある粉末タイプを選ぶと安心です。
油火災はマヨネーズで消火できますか?
結論として、マヨネーズによる油火災の消火は推奨されません。
マヨネーズには油分が多く含まれており、火元にかけると一時的に炎が収まる可能性はあります。しかし、内部の油が飛び散り、火が拡大する危険性もあります。
勢いよく投入すると、油が跳ねて腕や顔に火傷を負うリスクも高く、非常に危険です。
また、マヨネーズの水分が急激に加熱されることで小規模な「蒸気爆発」が発生する可能性があり、結果的に炎を強めてしまうことも考えられます。
かえって火災を悪化させる危険性があるため、マヨネーズを消火手段として選ぶのは避けましょう。
油火災は小麦粉で消火できますか?
油火災に小麦粉をかける消火方法は非常に危険です。
小麦粉は細かな粉末であるため、火元に振りかけると粉が空気中に舞い上がり、油と混ざって一気に引火する可能性があります。
これは「粉じん爆発」と呼ばれる現象に近く、炎が一瞬で大きく広がる危険性があるので絶対に避けましょう。
参照:大規模火災や爆発事故のメカニズムをよりよく理解するために|東京理科大学
油火災を防ぐために|天ぷらや揚げ物を作る際の注意点

油火災は、正しい消火方法を知っておくことも大切ですが、そもそも「火を出さない」ことが最も重要です。
ここでは、天ぷらや揚げ物をするときに意識しておきたい安全対策をわかりやすく整理しました。
日頃のちょっとした工夫で火災リスクは大幅に下げられるため、ぜひ参考にしてください。
油の量が少なすぎると危険
油火災を防ぐには、揚げ物などをする際に適切な量の油を使用することが大切です。
油の量が少なすぎると、鍋の金属部分がより早く高温になり、油温の上昇スピードも一気に加速します。結果として、油が発煙点を超えるまでの時間が短くなり、放置していると数分で自然発火する危険な状態に達してしまうのです。
コンロのメーカーや機種によっては「使用する油量の規定」が設けられていることがあるので、天ぷらや揚げ物をする際は、取扱説明書に記載された規定量を守ることが大切です。
調理油過熱防止装置がついているコンロを使う
揚げ物による油火災を防ぐうえで、最も効果的な対策のひとつが「調理油過熱防止装置(SIセンサー)」付きのガスコンロ・IHコンロを使用することです。
この装置は、油の温度が設定値に近づくと自動的に加熱を停止し、油が発火点に達するのを防いでくれる安全機能です。
人の目では気づけない温度上昇も検知できるため、目を離した瞬間の火災リスクを大幅に下げられます。
なお、古い型のコンロには過熱防止装置が搭載されていないことも少なくありません。
そのため、長年にわたってコンロを使用している場合は、買い替えを検討するだけでも安全性が大きく向上するでしょう。
また、鍋底が汚れていたり、サイズがコンロに合っていなかったりするとセンサーが正しく作動しないこともあるため、取扱説明書に沿って正しい使い方を心がけましょう。
安全装置を活用することで、油火災の多くは未然に防ぐことができます。
ながら料理は絶対に避ける
油火災の多くは、「少しのつもりでコンロから離れた」ことが原因で発生しています。
実際、東京消防庁のデータによると、令和4年に発生した天ぷら油火災178件のうち、148件は「放置する・忘れる」ことにより発生していることがわかっています。
揚げ物中の油はわずか数分で200℃を超え、さらに温度が上がれば自然発火に至ります。そのため、電話に出る・洗濯物を取り込む・子どもの相手をするなど、“ながら作業”を行うのは絶対に避けましょう。
油は透明で変化が分かりにくく、臭いや煙が出た頃にはすでに発火寸前ということも少なくありません。
「少しだけなら大丈夫」という思い込みをなくし、揚げ物中は必ずコンロに向き合う習慣をつけましょう。
まとめ
油火災が発生した際は、まず落ち着いて消火器・濡れタオル・鍋の蓋など、空気を遮断できる方法を用いて初期消火を試みましょう。
間違っても絶対に水をかけてはいけません。水が油と反応することで爆発的に炎が拡大し、重大な事故につながるためです。
また、ボヤ程度でも火が上がった場合は、119番通報・罹災証明書の取得・火災保険会社への連絡を行い、必要に応じて専門業者へ清掃を依頼することで、安全に生活を再開できます。
また、日頃から油の適量を守る、調理油過熱防止装置付きのコンロを使う、ながら作業を避けるといった予防策を徹底することが、油火災を未然に防ぐ大きなポイントです。
いざというときに冷静に行動できるよう、本記事を参考に安全な調理環境を整えておきましょう。
▶経歴
・YouTube「特殊清掃ch|すーさん」登録者5.3万人
・ペストコントロール技能師(日本ペストコントロール協会)
・IICRC認定テクニシャン(CCMT/OCT)
・Goldmorr認定テクニシャン(カビ除去スペシャリスト)
・JRES認定テクニシャン(火災水害復旧対策訓練修了)
・横浜市栄区自治体研修(「ごみ屋敷の解消と再発防止に向けた寄り添い支援」)
・これまで8年以上4,000件以上の現場(孤独死・火災・水害・ゴミ屋敷・遺品整理など)に携わる
▶メディア出演
・「ABEMA 変わる報道番組 #アベプラ【公式】」ABEMA
・「日刊SPA!」定期連載中
・「bizSPA!フレッシュ」
・「スタジオパーソル」単独取材
・「田村淳の地上波ではダメ!絶対!」BSスカパー
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